
犬の心疾患のうち最もよくみられるのが僧房弁閉鎖不全症で、心疾患のおよそ80%を占めています。よって、ここでは主に僧房弁閉鎖不全症についてご説明します。
原因ははっきりとは不明ですが、心臓の弁やその弁を支える腱索が粘液変性といわれる組織学的な変化を起こし、その結果、弁や腱索の変形、肥厚、虚弱、断裂などを引き起こします。それにより血流の逆流を引き起こし発咳(せき)や運動不耐性(散歩を嫌がる、すぐ疲れるなど)、腎障害、肝障害などの合併症を起こします。
好発犬種で代表的なのはキャバリアで4歳で約60%が罹患しているといわれています。他にも教科書的にはチワワやトイプー、マルチーズなどが好発犬種とされていますが、実際の臨床現場で治療にあたっていると圧倒的にチワワの子の罹患率が高いです。日本での飼育頭数の傾向にも起因しているでしょうが、上記にないミニチュアダックスにも多く認められます。
代表的な症状である咳(せきがでている時点ですでに病状は進行しています)も、飼い主さんはリードによる首の圧迫と思って気づいてあげれなかったり、毛玉を吐く仕草と勘違いしてしまっていることもよくみかけます。
聴診だけでは詳細はわかりませんが、毎日、診療に向き合っている獣医なら聴診だけでもそれが心臓が原因なのか、あるいはほかに原因があるのかぐらいはわかることが多いと思います。聴診だけならわずかなコストしかかかりません。違和感を何度も感じているなら早めに病院に連れて行ってあげましょう。
心不全の治療で最も大切なのは病態を進行させないことだと私は考えます。当然ですが他の疾患同様、早期発見、早期治療が非常に大切です。
病気が進行して肺水腫や不整脈を併発すると治療も非常に複雑になり、投薬の数もコストも大変になっていきます。しかも、僧房弁閉鎖不全症は重症度に応じた治療が残念ながら未だ確立されておらず、担当する獣医師の経験に頼るところが大きいのが現実です。
その治療の中心となるACE阻害剤ひとつとっても現在5種類ほどあり、その子その子に相性のようなものもあります。その相性や病態を加味して選択していくことにより、同じ一回の投薬でも効果が変わってきます。
現在治療中の子でもせきが治まらない、なんだか元気がない、体重がだんだん減ってきている、ちゃんとした説明をしてもらえず病気のことがよくわからなくて不安、というようなことがありましたら一度、ご相談ください。
聴診にて僧房弁閉鎖不全症が疑われた場合には血液検査、レントゲン検査、超音波検査、心電図検査などを行います。特に治療開始初期は薬の効果や病態、全身状態の変化などの判断のため、月に一度程度の検査が数ヶ月必要になることがあります。
★血液検査:全身状態の把握、これから投薬する薬の選択などのために必要です。
★レントゲン検査:心臓の形態の客観的評価(VHS法など)、肺や気管支の評価をします。
★超音波検査:心臓の形態の詳細の評価。弁や心臓の各部位の形態や動き、逆流の有無、血流の速度などを細かく観察できます。